Digidesign Eleven Rack 詳細レビュー
Stairway to ELEVEN: サウンド天国への階段
Digidesign は昨年 Pro Tools 用のギターアンプシミュレーター『Eleven』を発表して世界中を驚かせた。そんな同社が今回発表したのが、スタジオおよびステージでの使用に対応したラックタイプの『Eleven』だ。それでは Digidesign のこの最新製品を詳しく見ていくことにしよう。
ギターアンプシミュレーションはこれまでずっとギタリスト達の心を鷲掴みにしてきた。スタックアンプを置く場所が省け、隣近所に迷惑をかけずに「ビッグ」なサウンドが得られるのみならず、夢にまで見たエフェクター類やアンプがすぐに手に入ってしまうのだから。こういった要素はスタジオ環境でもステージ環境でも決定的な利点となる。しかし、大半のギタリストは機材のこととなると途端におセンチになるもの。自分の好きなアンプが使えないのは「キビシー」のだ。それでも彼らがギターアンプシミュレーションを使う唯一の理由は、ギタリストにとっての血であり肉であり魂でもあるその「サウンド」が優れているからだ。スピーカーやマイクを忠実に再現するアルゴリズムやコンボリューション技術が改善される度にアンプシミュレーションのサウンドはますます向上していった。
コンボリューション技術は Two Notes 社の『Torpedo』のようなハードウェアのスピーカーシミュレーター製品に採用されて広まったが、最新の『Guitar Rig』や『ReValver』、そして Digidesign の『Eleven』といったソフトウェア製品にも使われている。実際、『Eleven』は市場の類似製品と競うために開発された Pro Tools 用のプラグインだったが、いくらサウンドが素晴らしいとは言えど、ライバル製品から頭一つ抜きん出ることは難しかったようだ。
そこで Digidesign はこのプラグインをラック型のハードウェア製品に置き換えて、ギタリストがスタジオとステージの両方で使える便利なツールに仕立て上げた。果たしてどうやったのか。答えはここにある・・・。
ハードウェア・アンプ・シミュレーション
『Eleven Rack』は、完全に独立したスタンドアローンとして機能するアンプ/エフェクトシミュレーターであると同時に、同社を代表するシーケンサー『Pro Tools』にも対応したデジタルオーディオインターフェースでもある。つまり一粒で二度おいしい製品なのだ。まずはアンプシミュレーションから順番に見ていこう。
『Eleven Rack』には、同製品のソフトウェア版に搭載されていたアンプシミュレーションと同じものが搭載されている他、いくつかの新たなエフェクト類が追加されている。特に驚くべき点はない。
梱包を開けると、オレンジと黒のパネルが印象的な高さ 2U のラックがまず目に飛び込んで来る。アルミ製のフロントパネルにはプラスチックのボタンやノブ類が配備されている。「ナイス」かつ「シリアス」な外観に仕上げられている。プラスチック製のノブ類がギタリスト達の扱いに果たしてどれほど耐えられるのかは、これから時間が証明してくれるだろう。フロントパネルにはさらにスイッチ類やノブ類に囲まれるようにして視認性に優れたバックライト・ディスプレイが装備されている。通常のモードではスクロール・ホイールで約 100 のプリセットの選択を行い、「SW1」スイッチでディスプレイタイプの切り替えが行える。ディスプレイ下に備えられたコントロールつまみ類はアンプの設定用だ。これらのコントロールつまみ類はモーター制御されていないが、保存されている設定に近づくと黄色に、設定から離れると赤色に点灯する。保存 (SAVE) ボタンで設定の保存が行え、編集/戻る (EDIT/BACK) ボタンでプリセットの内部構造にアクセスできる。
後者のボタンを一度押すと、すべてのエフェクト、アンプ、スピーカーチェーンが表示されるようになっている。エフェクトの切り替えはスクロールホイールで行えるが、各エフェクトコントロール・ボタンからも直接エフェクトにアクセス可能となっている。エフェクトコントロール・ボタンを押すとエフェクトが起動し、ボタンを押したままにすると選択したエフェクトのパラメータにアクセスできる。「DIST」セクションには 3 種類のディストーションペダルが搭載されている。Big Muff タイプの『Tri Knob Fuzz』、チューブスクリーマータイプの『Green JRC Overdrive』そして ProCo RAT 風の『Black Op Distortion』の 3 つだ。「MOD」セクションにはフランジャー、コーラス/ビブラート (BOSS CE-1) 、ヴァイブフェイザー (Univox Uni-Vibe) 、ロトスピーカー (Leslie) 、オレンジフェイザー (MXR Phase 90) など、各種モジュレーションが搭載されている。「DELAY」セクションには Maestro 製 Echoplex EP-3 をベースとしたテープエコー、エレハモの Memory Man 風の BBD ディレイを搭載、「REV」セクションにはビンテージのフェンダーアンプ風のスプリングリバーブと 25 個のアルゴリズムを備えたデジタリリバーブが内蔵されている。「FX LOOP」ボタンは外部エフェクトループの起動/解除用だ。この他、「FX1」および「FX2」ボタンに Ross Compressor ペダルをベースとしたコンプレッサーと 5 バンドグラフィック EQ が用意されているが、両 FX ボタンともに前記した各エフェクトの挿入用としても使用できる。各エフェクト類をシグナルパスのどこにでも自由に挿入することができるのだから、これなら色々なサウンドの実験にもってこいというわけだ。ここにボリュームペダルおよび 2 種類のワウペダル (1 x VOX, 1 x Cry Baby) と、タップテンポボタン(チューナーでも使用)を加えれば、実に包括的かつ多様性に富んだエフェクトセクションの完成となる。ユーザーインターフェースはとても機能的で、異なるエフェクトのパラメーター間も簡単にブラウズできる。
搭載されているアンプとスピーカー類も高品質なものばかりだ。まず 4 台のフェンダーアンプ (Deluxe, Bassman, Deluxe Reverb, Twin Reverb) に Vox AC30、2 台のマーシャル (Plexi 1959, JCM800) 、2 台のメサブギ (Mark IIc+, Dual Rectifier) にソルダーノ SLO-100、そして Digidesign 製の 2 台のアンプ (JCM800 カスタム、Fender Deluxe カスタム)。これだけ有名なアンプが揃っていればギタリスト諸氏も満足してくれるだろう。あ、そうそう、オレンジとかハイワット、もしくはジャズコーラスなんかが含まれていても良かったかも知れない。しかし無理を言うのはやめておこう。基本はすべて押さえられているのだから。フェンダーの Bassman 以外にはベーシスト用のアンプもエフェクトも用意されていない。そう、この『Eleven』は飽くまでも「ギタリスト用」なのである。今後のアップデート時にベーシスト用の性能が含まれる可能性は・・・ある。これらのアンプに対応したスピーカーキャビネットは、フェンダーの 1 x 12 からグリーンバックの 4 x 12 まで全部で 7 種類。選択したアンプを自動的にスピーカーに接続するオプションも用意されている。マイク数は 8 本で、オン/オフ・アクシスの 2 種類のポジショニングが可能だ。マイクの種類は Shure が 2 本 (SM57, SM7)、ゼンハイザーが 2 本 (409, 421)、ノイマンが 2 本 (U67, U87) 、AKG が 1 本 (C414) そして Royer 121 リボンマイクが 1 本となっている。2 本のマイクを同時に使用できないことと、マイクのポジショニングが 2 種類しかない点が惜しいところだ。しかしそういった性能をコンボリューション技術で実現するのは非常に難しいことなのだろう。
要約すれば、質は非常に高いが、できることに限りがある、となるだろう。ほとんどのギタリストなら十分に対処可能だ。役立たずな性能が数多く備えられているよりも、優れた「使える」性能が 2 つほどあった方が全然良いのである。
それではデジタルオーディオインターフェースを見ていくことにしよう。
デジタルオーディオインターフェース
インターフェースは USB 2.0 ポート経由でコンピューターと接続することができる。入/出力端子数も非常に多い。まずは「True-Z」と呼ばれるギター入力端子から見ていこう。この不思議な名称の裏には興味深い可変インピーダンス技術が隠されている。このインターフェースは、ギターに接続するアンプやエフェクトに応じてインピーダンスを自由に調節することができるのだ。目的は、実物のアンプやエフェクトに接続した時とまったく同じ「感触」を忠実に再現することにある。この「True-Z」機能は好みによって自動モードもしくは手動モードで使用できる。このユニークかつ興味深い機能は『Eleven Rack』にとっての大きなプラスとなっている。マイク入力は XLR 端子となっており、コンデンサーマイク用の 48V ファンタム電源が備えられている他、ゲインコントローラーと -20dB の PAD スイッチが装備されている。
出力端子数も十分で、ギターアンプに直接接続できる「to AMP」出力が 2 系統用意されている。うち 1 系統はフロントパネルに、もう 1 系統はステレオ用としてリアパネルに装備。非常に便利なのは、この「to AMP」出力をシグナルパスのどの部分(例えばプリアンプとキャビネットの間nado)に挿入するかを自由に選択できることだ。フロントパネルにはヘッドフォン出力も備えられており、ボリュームノブでフォーン出力およびメイン出力の音量調節が行える。フォーン出力の音量は数あるメニューのうち一つで設定可能だとは言えど、やはりフォーン出力専用のボリュームノブがあった方が便利だった。実に惜しい!
リアパネルにある端子類を見てみよう。まず 6.3mm TRS フォンジャックによるステレオ FX ループで、エフェクトペダルもしくはエフェクトラック用のリターンレベル切替スイッチを装備している。次に XLR によるメイン出力端子で、こちらにはグラウンドリフトスイッチが付いている。この他、6.3mm フォンジャックによる 2 系統のライン入力 (-10dBV / +4dBu)、5 ピン DIN コネクタによる MIDI 入/出力端子、そしてエクスプレッションペダル/フットスイッチ接続用の 6.3mm フォンジャックが配備されている。デジタルセクションには XLR による AES/EBU 入/出力端子と RCA コネクタによる S/PDIF 入/出力を装備。USB ポートは当然用意されている。
Pro Tools との組み合わせ
インストールは付属の Pro Tools 8 LE DVD で簡単に行える。シーケンサーを起動させると『Eleven Rack』が標準のデジタルオーディオインターフェースとして自動的に認識される。バッファサイズを変更すればレーテンシーの設定も行える。しかし、ここで『Eleven Rack』が単なるインターフェースではないことに気がつく。設定ウィンドウを使って Pro Tools から直接すべてのパラメータの変更が行えるのだ。これは大きな強みだ。ハードウェアの方からも簡単に設定の変更はできるのだが、キーボードとマウス操作の快適さには敵うまい。Eleven の機能およびパラメータのすべてが見事なグラフィックと共にインターフェース上に用意されているのだ!
ふむ、確かにこれは実用的だが、ギターを接続して Pro Tools を立ち上げたらまず何をしようか。Eleven からの出力信号を録音するのは明らかだが、まったく処理されてないドライ信号の録音もできるのだ。でも、一体何のために?主に「リアンプ」のためである。ギター信号をクリーンな状態でも録音しておき、後でミックスの際に『Eleven Rack』で処理するのだ。これを『Eleven』プラグインの穴埋め、としておこう。『Eleven Rack』の設定を Pro Tools のオーディオトラック内に埋め込めるようにした Digidesign の開発陣は実に賢い。この単純だが便利なアイディアによってリアンプが非常に簡単に行えるようになった。参りました。
それじゃあ音楽を作ってみよう!
サウンド
アンプとエフェクターにはすべてモデリング技術が採用され、スピーカーとマイクのシミュレーションにはコンボリューション技術が採用されている。オリジナルアンプの設定がすべて再現されているのに対して、スピーカーやマイクのパラメータが異様に少ない理由はここにある。マイクのポジショニングはオン・アクシスかオフ・アクシスかの 2 種類しかなく、複数のマイクの併用もスピーカーからのマイクの設置距離の変更も行えない。しかしその一方、8 種類のマイクと 7 種類のスピーカーキャビネットは、十分なまでのサウンドバリエーションを提供してくれる。
ギターを接続するだけで(編集部では Gibson レスポールを使った)、すぐに快適な演奏が楽しめる。サウンドも良い。パラメータ類をいじくり回す必要もまったくない。ギタリストにとって大切なピッキングのニュアンスや強弱などもシミュレーションがすべて再現してくれている。若干粗めではあるが、ギターサウンドもそのままフルミックスに使えるだけの音色だ。ミックスの経験はないが、音の良いデモを制作したいと考えているギタリストにとっては重要なポイントだろう。搭載されたアンプモデルの数自体は大したことないが、その音色に不満を感じたモデルは一つとしてなかった。すべてがオリジナルのアンプに忠実にモデリングされていた。Digidesign 独自のカスタムアンプモデルも悪くはなかったが、オリジナルのアンプシミュレーションとなんら変わるところはなかった。スピーカーとマイクのサウンドは実に素晴らしく(コンボリューション万歳!)、ギターのサウンド特性を急激に変えることができる。ユーザーがおのおので好みのスピーカー/マイクの組み合わせを見つけるのがいいだろう。恐れることなく使ってみることをお勧めする。極性の間違いのようなことも決して起こらない。各エフェクトも由緒正しきオリジナルのハードウェア機を元に開発されており、サウンドも正統そのもの。編集部はすべてのエフェクトに合格印を与えた。
読むより聴くが早し。サウンドサンプルを聴いていただこう。
アンプ:
エフェクト:
Takamine の EG-10 アコースティックギターと手頃なラージダイアフラム・コンデンサーマイク SE Electronics X1 を使ってマイクプリアンプのテストも行ってみた。ゲインコントローラーを 3/4 まで上げてようやく使えるだけの音量レベルに達した。このプリアンプは奇跡を生むほどのものではないが、まともなデモの制作には十分だ。サウンドサンプル:
結論
Digidesign はスタジオおよびステージに対応した実に興味深い製品でギター市場に打って出た。Guitar Rig や Pod X3 Pro よりアンプ数やエフェクト数は少ないが、音質は非常に素晴らしい。コンボリューション技術が一役買っているのは間違いないだろう。数多くの入/出力端子や柔軟なルーティング環境が整っているため、非常に多様性に富んだ内容となっている。特にリアンプの際には実に便利だ。そしてやはり「True-Z」入力。何ともありがたい機能だ。多数のエフェクトとバーチャルインストゥルメントを含む『Pro Tools 8 LE』と組み合わせれば、『Eleven Rack』はさらに価値あるツールとなる。Pod X3 Pro よりも 200 ドル高い 900 ドルという価格は一見ちょっと割高に感じるが、シーケンサーのバンドルと優れた音質を考慮すれば申し分のない内容だ。唯一欠けているのはフォーン出力用のボリュームコントローラーぐらいだろう。完璧なものなどないのだ。
- 素晴らしいデザイン
- 有名アンプおよびエフェクトのシミュレーション
- コンボリューションベースのスピーカーおよびマイクモデリング
- 全体的なサウンドクオリティ
- 多様性
- リアンプ可能
- 入/出力数
- True-Z ギター入力
- ステージでコンピューター不要
- 包括的なデジタルオーディオインターフェース
- ファンタム電源付きマイク入力
- Pro Tools 8 LE とのバンドル販売
- Pro Tools 内における『Eleven』のユーザーインターフェース
- 『Eleven』のプラグインバージョンがない点
- GUI が Pro Tools のみに対応している点
- いくつかのアンプおよびエフェクトが搭載されていない点
- マイクポジションが 2 種類のみの点
- プラスチック製のノブ類
- フォーン用の独立ボリュームコントローラーがない点
所有機材